線維筋痛症とSFNのつながり
今回は、線維筋痛症の症状(全身の痛みや感覚異常)と似ている「自己免疫性小径線維神経障害(SFN)」に注目し、特に「TS-HDS抗体」の役割について、海外の最新論文を翻訳・解説します。
線維筋痛症で原因不明の痛みに悩む方や、鍼灸師として患者さんをサポートする方にとって、SFNの知識は新たなヒントになるかもしれません。この記事では、TS-HDS抗体がSFNや線維筋痛症とどう関わるのか、わかりやすくお伝えします。
先に結論
自己免疫性小径線維神経障害(SFN)が診断・治療されても痛みが改善するという証明はないです。
今後の痛み研究の新たな展望に繋がるかも…というのが現状
1. 自己免疫性小径線維神経障害(SFN)とは?
SFNは、皮膚や内臓の感覚・自律神経を司る「小径線維(Aδ繊維、C繊維)」が障害される疾患です。主な症状は以下の通りです:
- 感覚異常:手足や顔の灼熱感、ピリピリした痛み、しびれ。
- 自律神経症状:発汗異常、消化器トラブル、めまい、起立性低血圧。
- 線維筋痛症との共通点:全身の慢性疼痛や感覚異常が似ており、SFNが線維筋痛症の一部の原因として研究されています(例:Oaklander AL, Neurology 2013)。
自己免疫性SFNでは、免疫系が誤って小径線維を攻撃し、TS-HDS抗体やFGFR3抗体が関与する可能性が注目されています。特にTS-HDS抗体は、SFN患者の約3分の1で検出され、急性発症のケースで特に重要です。
2. TS-HDS抗体とは?最新論文からわかること
TS-HDS(Trisulfated Heparin Disaccharide)は、神経細胞の表面にある糖タンパクで、これに対する抗体が自己免疫性SFNのマーカーとして研究されています。以下、2021~2024年の代表的な論文を翻訳・解説します。
(1) 論文:Trevino JA, Novak P (Muscle & Nerve, 2021)
- 概要:322人のSFN患者を対象に、TS-HDS抗体と自律神経障害の関連を調査。28%がTS-HDS抗体陽性、96%に自律神経障害(発汗異常や起立性低血圧)が確認されました。特に急性発症のSFN患者で抗体が90%以上に関連。
- ポイント:TS-HDS抗体は、線維筋痛症患者が感じる「全身のピリピリ感」や「原因不明の痛み」と関連する可能性があります。診断マーカーとしての価値が期待されます。
- 翻訳例:「TS-HDS抗体は、SFN患者の28%で検出され、特に急性発症の患者で高頻度(90%以上)に見られます。自律神経症状(例:発汗異常、消化器トラブル)と強く関連し、診断のヒントになる可能性があります。」
(2) 論文:Daifallah O, et al. (Front Mol Neurosci, 2023)
- 概要:TS-HDS抗体の病原性をレビュー。SFN患者の約33%が抗体陽性で、非長さ依存性の痛み(手足だけでなく顔や体幹)に特徴。IVIG(静脈内免疫グロブリン)の有効性は議論中で、一部の研究では効果を示唆するが、2023年の試験では痛み改善の証拠が不足。
- ポイント:線維筋痛症患者にとって、TS-HDS抗体検査は「痛みの原因究明」の一歩になる可能性があります。ただし、IVIGの効果は確定しておらず、さらなる研究が必要です。
- 翻訳例:「TS-HDS抗体はSFN患者の約3分の1に見られ、急性発症の患者で特に重要です。顔や上肢の痛みと関連し、IVIGの効果は一部の研究で報告されていますが、痛みへの効果はまだ不明です。」
(3) 論文:IASP (Pain, 2024)
- 概要:SFNの自己抗体(TS-HDS、FGFR3など)の役割を総括。TS-HDS抗体は28%の患者で検出され、自律神経症状と関連。50%以上のSFNが原因不明だが、IVIGや血漿交換が自己免疫性の関与を示唆。ただし、TS-HDSの病原性は未証明。
- ポイント:TS-HDS抗体は診断のバイオマーカーとして有望ですが、線維筋痛症への応用には慎重な検証が必要です。
- 翻訳例:「TS-HDS抗体はSFN患者の28%に見られ、起立性低血圧や発汗異常と関連します。IVIGが一部の患者で有効ですが、TS-HDS抗体の病原性はまだ不明で、診断マーカーとしての可能性が注目されています。」
3. 線維筋痛症患者にとっての意義
線維筋痛症とSFNは、以下の点で深く関連しています:
- 症状の類似性:灼熱痛や感覚異常、自律神経症状(例:消化器不調、発汗異常)が共通。
- 自己免疫の関与:TS-HDS抗体が線維筋痛症の一部の患者で検出される可能性があり、免疫異常が痛みの原因かもしれない。
- 診断の課題:日本ではSFNの診断に必要な皮膚生検や抗体検査を実施できる施設が限られています(例:東京医科歯科大学病院、新潟大学病院)。
線維筋痛症で「原因不明の痛み」に悩む方は、TS-HDS抗体検査やSFNの可能性を専門医に相談することで、新たな治療の糸口が見つかるかもしれません。
4. 治療の現状と今後の展望
診断方法
- 皮膚生検:皮膚の神経線維密度を評価。日本では大学病院(例:東京医科歯科大学)で実施可能だが、施設は限定的。
- TS-HDS抗体検査:海外では診断マーカーとして使用されるが、日本では標準化されておらず、検査は保険適用外の場合が多い。
- 定量的感覚検査(QST):温度や痛覚の異常を評価。
治療方法
- IVIG(静脈内免疫グロブリン):自己免疫性SFNで一部の患者に有効と報告されるが、日本では保険適用外(費用:20~50万円/回)。線維筋痛症での使用は研究段階。
- 免疫抑制剤:ステロイドやリツキシマブが試みられる場合も。
- 対症療法:線維筋痛症と同様に、抗うつ薬(デュロキセチン)や抗てんかん薬(プレガバリン)を使用。
今後の展望
- TS-HDS抗体の病原性証明や、線維筋痛症との関連解明が期待されます。
- 日本神経免疫学会や国際学会(例:ISNI)で、SFNのバイオマーカー研究が進展中。2025年の学会発表に注目です。
5. 日本での情報と受診のポイント
日本では、自己免疫性SFNの情報は神経内科やリウマチ科の専門領域で扱われています。以下は受診の参考情報です:
- 医療機関:
- 東京医科歯科大学病院 神経内科(皮膚生検対応)
- 新潟大学医歯学総合病院 脳神経内科(神経免疫学研究)
- 大阪大学医学部附属病院 神経内科
- 学会:日本神経免疫学会(https://www.neuroimmunology.jp)や日本線維筋痛症学会(http://japan-fms.org)で最新情報をチェック。
- 患者会:線維筋痛症の患者団体でSFNに関する情報交換が可能。
受診のコツ:
- 神経内科やリウマチ科の専門医に相談し、SFNの可能性を伝える。
- 症状(灼熱痛、自律神経症状)を具体的に記録し、医師に提示。
- セカンドオピニオンを活用し、TS-HDS抗体検査やIVIGの適応を検討。
6. 読者へのメッセージ:次のステップ
原因不明の痛みに悩む線維筋痛症患者さんや、患者を支える鍼灸師の方へ。TS-HDS抗体とSFNの研究は、痛みの原因解明や新たな治療への希望を与えてくれます。ただし、診断や治療は専門医の指導のもとで進めることが大切です。
あなたにできること:
- 専門医に相談:神経内科やリウマチ科でSFNの検査(皮膚生検、抗体検査)を検討。
- 情報収集:PubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)で「Autoimmune Small Fiber Neuropathy」を検索し、最新論文をチェック。
- コミュニティ参加:線維筋痛症の患者会やオンライングループ(例:FacebookのSFNグループ)で情報交換。
申鍼会では、今後も海外の最新研究を翻訳し、線維筋痛症やSFNに関する情報を発信していきます。ブログのコメント欄やSNSで質問やご意見をお待ちしています!
参考文献
- Trevino JA, Novak P. TS-HDS and FGFR3 antibodies in small fiber neuropathy and dysautonomia. Muscle & Nerve. 2021;64(1):70-76.
- Daifallah O, Farah A, Dawes JM. A role for pathogenic autoantibodies in small fiber neuropathy? Front Mol Neurosci. 2023;16:1254854.
- IASP. The role of antibodies in small fiber neuropathy: a review of currently available evidence. Pain. 2024 Jun 22.








