線維筋痛症マニュアル8

線維筋痛症マニュアル

【睡眠を改善せよ】

”線維筋痛症患者の治療には睡眠の改善に集中する。睡眠改善が患者の状態をより良くする“

by テンプル大学リウマチ学部長、スティーブン・バーニー(DAVIS N.D.)

睡眠の改善は痛み、疲労、頭のモヤモヤを減らすための大切なファーストステップです。

残念ながら多くの医師が睡眠に詳しくありません。しかし線維筋痛症は主に睡眠障害であり深い睡眠が苦手です。

研究においても線維筋痛症患者は睡眠の途中で覚醒している脳波が測定されています。

このような慢性睡眠不足は疲労、筋肉痛、頭にモヤがかかったような思考状態(頭がスッキリしない)状態を引き起こします。

多くの医師は線維筋痛症の睡眠を改善させるための知識がありません。

最も効果的な薬はオキシベートナトリウム(商品名: Xyrem)です。残念ながら違法な(レイプドラッグのような)使用のリスクのため2010年にFDAの承認を拒否され線維筋痛症の睡眠を研究するという動きがストップしました。

次の章ではXyremに似た効果を持たせるための薬の組み合わせについて紹介します。

しかし、まず睡眠を妨げている可能性のある他の問題を排除する必要があります。そのために正常な睡眠と線維筋痛症の異常な睡眠の両方について学びましょう。

【正常な睡眠】

浅い睡眠は全体の55%を占め脳波は中くらいの速さです。目覚めやすい状態です。

深い睡眠は全体の20%を占め脳波は非常に遅く夢を見ません。成長ホルモンが放出され筋肉組織が修復されます。目覚めにくいです。

レム睡眠は全体の25%を占め脳波が速く夢をみます。眼球運動が起こり、目覚めやすいです。

【線維筋痛症の睡眠】

線維筋痛症では眠りが正常に行われず、睡眠パターンが非常に貧弱です。浅く、途切れ途切れで、通常のデルタ波または熟睡期間が不足しています。

また通常は目覚めた脳にしか見られない「覚醒した」脳波(アルファ波)によって眠りが中断される「アルファ波侵入」と呼ばれる現象を起こします。

医師が指示する睡眠研究は、睡眠時無呼吸の診断のみを目的としているため、アルファ波侵入については調べません。

脳波の計測は睡眠時に手作業で行われなければならず、大変な作業です。今のところ睡眠時の脳波を記録する一貫した方法もありません。

しかし睡眠医のビクター·ローゼンフェルド博士による 興味深い研究が それを変えるかもしれません。

彼はアルファ波とデルタアルファ比を比較してアルファ波を数えて睡眠研究を迅速に分析する専門コンピュータープログラムを開発しました。 そして線維筋痛症患者でデルタアルファスコアが低いことを発見しました。

この研究が大規模研究で確認されればデルタアルファ比は線維筋痛症の診断ツールとして使うことが期待できます。

アルファ侵入の原因はストレス応答系にあると考えられています。健康な人は夜は静かだが、線維筋痛は継続的に活動しています。

脳は「片目を開けて寝る」ような状態で脅威を撃退しようとしているため,完全には深い眠りに落ちません。 線維筋痛症による深い睡眠もまた、覚醒脳波によって頻繁に中断される不安定なパターンを示しています。

健康な睡眠では,脳は通常,浅い段階に戻る前に,ある期間(通常は20~30分)深い眠りに留まります。

一方 線維筋痛症では深い眠りから浅い眠りへと 飛び交うのです。1分程度しか深い眠りに留まることができず、脳と体は深い眠りの恩恵を受けることができません。

睡眠不足が続くと 脳も体も深い眠りに飢えてしまいます 。浅い眠りでは線維筋痛症の回復が得られず痛みを引き起こしています 。

線維筋痛症の睡眠を研究したハービー·モルドフスキー博士は健康な大学生を数晩、睡眠不足にさせ筋肉痛と疲労の線維筋痛症と似た症状を誘発することができたことから

「非修復睡眠症候群」と見なすべきだと提案しました。(Moldofsky 1975).

【線維筋痛症の睡眠治療 】

深い眠りにつく時間を増やし 覚醒状態の脳波を取り除くにはどうすればよいでしょうか? まず、閉塞性睡眠時無呼吸症やレストレスレッグス症候群などの関連疾患を発見し、治療します。 次に、睡眠の質を損なう習慣や薬を取り除きます。 最後に、深い眠を増やす薬を追加します(第9章で詳しく説明します)。

【その他の睡眠障害の評価と治療 】

睡眠改善を目指す線維筋痛症の患者には治療が必要な睡眠障害がないようにすることを 最初にお勧めします。

線維筋痛の人の半数は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群など、睡眠をさらに悪化させる障害も持っています。

更年期の前後のホルモン変化も睡眠に悪影響を及ぼすことがあり 寝汗による不眠症や頻繁に目が覚める場合は、ホルモン補充療法について医師に相談してください。

更年期女性のホルモン補充療法は睡眠の質を向上させることが示されていますが特定の癌のリスクの増加とも関係しているため、賛否両論ります。

第16章では更年期のホルモンバランスを整え,副作用を減少させるための自然な方法についてお伝えします。

【睡眠時無呼吸症候群】

無呼吸症候群は喉の奥の組織が気道を塞ぎ呼吸を止めることで引き起こされる睡眠障害です。

1時間に何百回も起こり、無呼吸のたびに脳は強力な覚醒信号を受けて呼吸を引き起こし、その結果、断片的で質の悪い睡眠と日中の深い疲労をもたらします。

治療には通常、酸素を肺に押し込んで気道を確保するマスクを着用します。CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:シーパップ=持続陽圧呼吸)と呼ばれます。

線維筋痛では、軽度の睡眠時無呼吸であってもストレス反応の大きな刺激因子となるため、どんな睡眠時無呼吸症候群でも治療することが極めて重要です。

放置すると混乱している線維筋痛症の睡眠パターンが著しく悪化し、深い眠りを改善することは不可能に近くなります。 線維筋痛の男性は睡眠時無呼吸症候群であることが多いため睡眠外来に診察を依頼します。また女性でも肥満,喫煙,首の肉厚など危険因子がある場合は同様に依頼します。

私の患者のジュリーは睡眠時無呼吸症候群だと知り治療を開始した後ようやく疲れがとれました。

睡眠時無呼吸の人は毎晩何度も目が覚めていることに気づかないことが多いですが、一緒に寝ているパートナーも大きないびきや大きな喘ぎ声に気付かないことがあります。

診断する唯一の方法は睡眠の専門病院です。

病院に 一晩入院して 睡眠を綿密に監視します。機械は呼吸と動きを記録し 脳波を分析することで 睡眠の各段階でどれだけの時間を過ごすかがわかります。

自宅で携帯キットを使用して行うこともできますが、これらのキットはそれほど多くの情報を提供しないため、病院での検査が必要になる場合があります。

中枢性睡眠時無呼吸と呼ばれる状態は脳が呼吸を「忘れる」ときに起こります。これは脳の呼吸調節中枢に影響を与える薬、特にベンゾジアゼピンと麻酔剤の両方の患者に最もよく見られるので、この組み合わせは避けるべきです。

【レストレスレッグス症候群 】

レストレスレッグス症候群 (RLS) は神経学的な疾患で、脚がずきずきしたり、引っ張ったり、這ったり、その他の不快な感覚と、それらを動かしたいという制御不能で圧倒的な衝動を伴います。

横になってリラックスしようとすると症状が出るので,RLSにかかっているほとんどの人は寝つきが悪くなります。

RLSは線維筋痛においてかなり一般的で、女性患者の約3分の1に起こります。不眠や睡眠障害の重要な原因となる可能性があります。


【私はレストレスレッグス症候群ではないでしょうか?】

·不快感を解消するために足を動かしたいという強い衝動に駆られることが多いですか?

·じっと座っている時と横になって休んでいる時のどちらが症状がひどいですか?

·足を動かしたり、歩いたりすると一時的に楽になりますか?

·症状は夕方からですか、それとも夜からですか?

これらの質問のうち 1 つまたは複数に yes と答えた場合は医師に restortless legs 症候群があるかどうかを尋ねましょう。


RLSは脳内化学物質ドーパミンの低レベルに関係しています ドーパミンの生成には鉄が必要なので,鉄欠乏性貧血の人は足が落ち着かないことが多いです。

このような鉄とドーパミンの関係から、もしあなたがRLSを持っているなら、鉄のレベルを監視し、不足があれば取り替えることが重要です。 テストには、完全な血液数と、鉄分およびフェリチンのレベルの測定が含まれます(血流中の鉄分の量を測定する最良の方法)。

しかし、RLSの場合、血液中の鉄分だけでなく、脳内の鉄分も重要になります。 フェリチン値が正常な人は、脳内の鉄分が少ないことが原因で、RLSになることもあります。

私の患者で重度のRLSにも関わらず正常な血中鉄分とフェリチンがある人がいました。

そこで脳に直接鉄分を注入する静脈内鉄注入をした所、患者の症状は消えました。

ある研究によると、静脈内鉄注入は68%の被験者において、大きな副作用がなくRLS症状の有意な改善が見られました。(Cho 2013)

もしあなたがRLSを持っているなら、鉄分とフェリチンのレベルを検査することをお勧めします。 これらの値が低い場合は、鉄分補給剤を使用して通常の範囲戻します。

正常な鉄分とフェリチン値の患者でも,RLSの症状が改善されるかどうか見るために鉄分補給剤を入れています。

レベルが高くなりすぎないように監視する必要があるため鉄分補給する前に 医師と相談してください。

メタンクス(Metanx)※はB6、 B12と葉酸の活性形態のビタミンサプリメントで、これらの栄養素は 鉄分を使う能力を高めるためRSL患者の一助となりました。

※日本での販売無し。eBayでも無かったです。

他の治療法としては、カルビドパ/レボドパ(Sinemet)、プラミペキソール(Mirapex)、ロピニロール(Recip)など、脳内のドーパミンレベルを高める処方薬があります。

就寝時にガバペンチンとプレガバリンはマグネシウムサプリメントのように症状を和らげることができます。

私の患者の何人かは,寝る直前にマグネシウムオイルやローションを足に塗ると効果があると感じています。

【睡眠習慣を改善して睡眠の質を良くする】

睡眠障害を治療した後、次のステップは睡眠のリズミカルな性質に取り組み、ルーチンを確立することです。 子供がいる人なら誰でも 決められた就寝時間や 最初の入浴 歯磨き 物語を読むなど 日常生活の重要性を知っています。

毎晩それを続けるのは、それがうまくいくからです。また夜更かしさせたり、就寝時にお菓子を食べさせたり、テレビを付けながら寝かしつけたりすることもありません。

しかし 私たち自身は このような習慣には従いません。

より良い睡眠を得るためには睡眠を妨げる要因を避け、寝るための一貫したルーティーンを守ることが重要です。

【睡眠を改善する行動と習慣】

・カフェインを減らす

午後 2 時以降は、カフェインやその他の刺激物を含む飲食物を摂取しないでください。

・就寝後4時間以内にアルコールや喫煙をしてはいけません。

・寝る直前に多量の食事をしてはいけません。

・一貫した体のリズムを保ちましょう。

・毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きることで睡眠パターンを作りましょう。

・日中の昼寝は避けましょう。

・静かでリラックスできるベッドルームを作りましょう。

・部屋が静かでない場合、またはパートナーのいびきがうるさい場合は、耳栓などを試してください。

・寝室が暗いかどうかを確認してください。必要に応じて遮光カーテンを買ってください。

遮光カーテンは睡眠以外には使用しないでください。


【深い睡眠を妨げる薬を減らす、または削減する 】

最後に、睡眠の質を損なう薬を服用していないことを確認する必要があります。

残念ながら線維筋痛症の症状を治療するために 使用されている2つの薬は実際には睡眠に対して有害です。

アヘンを主成分とする鎮痛剤とベンゾジアゼピン(抗不安剤)は、熟睡時間を短縮し、疲労の悪循環をもたらします。睡眠の質を向上させるには、これらの薬を完全に排除するか、あるいはそれが不可能ならできるだけ早く服用しましょう。

モルヒネとメタドンは共に一晩の深い睡眠時間を減らすことが示されており、これは部分的にアヘンが長期間にわたって筋肉痛の管理にあまり役に立たない理由を説明しています(Dimsdale 2007; Shaw 2005)。

処方箋が有益であるためには 第20章で学ぶように 適切な薬でなければなりません 悪影響を抑えるため、必要なアヘン類はできるだけ就寝時間から遠ざけることをお勧めします。

ベンゾジアゼピンとして知られる抗不安薬は不眠症によく処方され、睡眠を助けるかもしれませんが睡眠の質は悪くなる可能性があります。(Hindmarch 2005)。

ベンゾジアゼピンは 線維筋痛症の不眠症を治療する最後の選択肢です。

次の章では 不眠症を治療し 熟睡時間を増やす より良い選択肢について説明します。

不安症状の治療のためにベンゾジアゼピンが必要な場合は、できるだけ睡眠時間に近づけないようにするか、第17章で深い眠りを妨げないいくつかの選択肢を確認してください。

もしあなたが現在ベンゾジアゼピンを睡眠のために服用していて、やめたいなら、まず医師と話し合って、減薬のスケジュールを決めてください。ベンゾジアゼピンを突然中止すると命に関わる禁断症状を引き起こすことがあります。

【ベンゾジアゼピン系医薬品】

・クロナゼパム [クロノパン]

・ロラゼパム [アチバン]商品名ワイパックスなど

・ジアゼパム [バリウム]商品名セルシン、ホリゾンなど

・アルプラゾラム [キサナックス]商品名サワイ

・テマゼパム [レストリル]日本未発売

・トリアゾラム [ハルシオン]


※その他(鍼灸院HIROより)↓

  • 短時間型:ブロチゾラム(商品名:レンドルミン)、ロルメタゼパム(商品名:エバミール、ロラメット)、リルマザホン(商品名:リスミー)
  • 中間型:フルニトラゼパム(商品名:サイレース)、エスタゾラム(商品名:ユーロジン)、ニトラゼパム(商品名:ベンザリン、ネルボン)
  • 長時間型:クアゼパム(商品名:ドラール)、ハロキサゾラム(商品名:ソメリン)、フルラゼパム(商品名:ダルメート)

→目次

→治療運動(11章)